「声の道場」から「すり足」へ

17、8年ほど前、日常の声が出にくいという悩みで「声の道場」にいらした75歳の女性がありました。
若い頃から自分の本当の声よりも高い声で話していらしたせいで年齢を重ねて声が出にくくなっているのではないか、という私の判断に納得なさり何度か道場に通われ、稽古を始められたのです。
声が出やすくなって謡も始められた頃、その方の小学校の同級生でやはり声に悩みを持っていらしたお友達をお連れになりました。
その方は声は大きいけれど直ぐに喉が痛くなり声嗄れしてしまう、ということでした。お話になる時に顔が前に出てくるので、姿勢が問題だということをお話し、顔が前に出ないような発声の練習をすることで、ある程度改善することができ、二人で一緒に謡の稽古を始められました。
お二人ともとても楽しまれ、その後仕舞の稽古も始められ、7、8年楽しまれたでしょうか…。
その後それぞれのご事情で、おやめになったのですが時々は連絡を取り合っていました。

ある時、おひとりの方と電話でお話していた時、
「先生、私は家では使い古しの足袋を履いてるんですよ。お手洗いに行くときや急ぐ時は、仕舞の構えをしてすり足で歩くようにしてるんです。そうすると安定してスーッと動けて安心なんです」
その方は、ひとりで一軒家にお住まいでした。ひとりで遠出することを別に住んでいらっしゃるご家族が心配され、お稽古には通われなくなったのですが、仕舞の動き「すり足」を日常生活でちゃんと使っていらしたのです。

とても嬉しいご報告でした。まだ「能エクササイズ」は始めていませんでしたが、「声の道場」が「すり足」「能エクササイズ」に繋がった最初の出来事だったかもしれません。

現在膝のリハビリ中の私も、もう少し安心がいったら舞の稽古を始めます。その時は改めてすり足の効果を、身を以て感じられるのではないかと楽しみにしています。

関連投稿

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。

トップに戻る