和の構え

-能エクササイズ実践 1-

能において「すり足」は基本中の基本です(すり足とずり足参照)。仕舞のときももちろんお教えするのですが、どうしても型や順序に気を取られ、おざなりになってしまいます。そこで仕舞に関係なく健康のために始めた能エクササイズで「すり足」のみを取り上げました。仕舞をしていない人も、健康のために参加しています。その実践の様子を何回かに分けて言葉でお伝えしたいと思います。

1回目は「すり足」の基本となる「和の構え」を作る稽古です。正座から立ち居へ、そして下に居、正座へ戻るという動きを身につけます。

正座

骨盤の前に膝が来るように、できれば両足先を重ねるように座り、足の間にお臍を押し込む感じで前傾します。骨盤はそのまま腰(仙骨)を立て、腰から垂直に頭頂を引き上げるようにして上半身の縦軸を作ります。顎が出ないように、耳と肩が垂直になる感じです。横軸は肩甲骨を横に張り、あくまでもイメージですが、胸板に背骨と肩甲骨で十字を作ります。肩の力を抜き手は膝に。これで座位の「和の構え」ができます。

正座から立つ

少し腰を上げて左足(右足でも)を少し出し片膝を立て、後足の指を立て、前足に重心を乗せて頭がなるべく揺れないように上から引き上げられる感じで、腰で上半身を持ち上げるように立ちます。前に重心があるので自然に後ろの足が前の足に揃います。そのまま立つと胸の線が爪先と揃う位の前傾した状態になります。

膝には少し緩みがありますが、曲げるのではありません。膝を曲げるとお尻が落ち重心が後ろに行くので、骨盤を締めお尻を上に引き上げるようにします。これで立ち居の縦の軸ができます。

横の軸は、正座のときのままでいいのですが、慣れないとどうしても立つときに肩に力が入り崩れるので、改めて肩甲骨を横に張るように意識します。そうすると自然に腕が張るのでそのまま手を下げ軽く握ります。肘は腕の張りでやや丸くなりますが、決して抱え込むように曲げるのではありません。

結局は正座の上半身をそのまま保って立つということなのです。これで「すり足」の第一歩を出す構えができました。

正座に戻る

立った構えから正座まで戻す時は、立つときの動作を逆回しするようにします。最後に惹きつけた足を一足引き重心は前にあるまま腰を沈めます。右膝(左膝)が床に着いたら前の足を引き揃え元の正座の形に戻します。その時重心が後ろに行かないよう気をつけます。もう一度上半身の縦横の軸を確認し、肩の力を抜いて手は膝に載せます。

「正座から立ち居へまた正座へ」この動作を上半身がなるべく動かないようにして、何度か繰り返します。体を腰で押し上げ、腰で沈める稽古です。上半身の安定を保つための下半身の筋力トレーニングになります。

この動作を稽古するときに、心がけたい大事なことがあります。それは目線です。遠くをまっすぐ見る、それも焦点を合わせずに、です。そうしていれば、目線は立ったり座ったりする体の動きに自然についてくるし、構えが崩れにくくなります。「すり足」をするときには特に重要になります。

膝が痛くて立ち座りが難しい方は、椅子に浅く腰掛け、骨盤の前に膝、その下に足が来るようにして、重心が足に乗るようにします。正座のときと同じように膝の間にお臍を押し込む形で前傾、腰から頭までの軸を真っ直ぐにして、重心が後ろにいかないようにします。重心が前に掛かったまま、頭を上から引き上げられるような感じで腰を持ち上げます。立ち上がった状態は正座からと同様で、縦軸横軸を確認します。腰掛けるときも腰をゆっくり沈めお尻が椅子に着いたら重心が後ろに行かないよう、元の構えに戻ります。

体を前後させないよう何度か繰り返すことで、それだけでも十分下半身の筋肉を鍛えることになりますが、自分の体力に合う回数にして、痛みを感じるときなどに無理はしないようにしてください。

どこにも痛いところがないのに、立ち居がスムーズにいかない方は、足首が硬いのかもしれません。そういう方は別に足首のストレッチをしていただいています。「正座をするとすぐに足が痺れる」という方も足首の硬さが原因ということもよくあります。

和の構えで立ったり座ったり。最初はとても大変かもしれません。少しずつ立つための筋力が付き、この動作がスムーズにできるようになると、着物を着たときの動作がとても美しくなり、他の和の稽古事全般に役立つと思います。因みにこの正座の形(腰掛けた場合も)が謡う時の構えでもあります。

「すり足」は楽しみながら長く仕舞をしていると自然に身につくものです。是非たくさんの方にそうして仕舞の稽古を楽しんでいただきながら「すり足」を体得していただきたいとは思うのですが、残念ながら能や仕舞に興味を持つ方は多くありません。仕舞の稽古をしていない方にも、また能に興味のない方にも、健康のために「能エクササイズ」として「和の構え」と共に「すり足」だけでも体験していただき、短い時間で体感し納得し身につけていただければ、と発信することを思い立ちました。言葉で伝えるのはとても難しいのですが、いろんな方に興味を持っていただけると嬉しいです。

仕舞を楽しむことが健康に繫がることになる、その逆コースともいえます。健康のために「すり足」の稽古をすることが仕舞の楽しさに繫がるかもしれない、とも思っています。

前に能エクササイズにいらしていて、コロナ騒ぎでいらっしゃれなくなった方も、この記事を見ていただいて、思い出しながらお家で稽古していただけたらと思います。短い時間で運動不足の解消にもなると思います。

次回は「すり足」の運びに繫がる歩き方の稽古の様子です!

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