こころみの会

能楽書林から発行されている「能楽タイムズ」の7月号で「異色の女性能楽師」というタイトルで小田幸子先生と対談をさせていただきました。
その折、以前に私が主催した「こころみの会」のことを聞いてくださるというので、開催した10回全部の番組を探し見つけ、久しぶりに思い出に浸りました。

「こころみの会」を始めたのは、昭和63年に女性能楽師として道を歩き始め10年ほど経って、子どもたちも大きくなり能の方にしっかり向き合えるようになった平成11年のことでした。
男性のものとして歴史を刻んできた能の世界で、女性能楽師が舞台に上がるようになって70年余り。多くは能の家に生まれた方や子供の頃から稽古を始められた方が、苦労を重ねながら切り開いてくださった道です。好きとはいえ人生途中から能の世界に入った自分が、どう活動していくか考えていた時期でもありました。

「女性の能のこれからを考える」
最初の会のサブタイトルです。一つ一つ解説を入れながら、男性と女性で同じ仕舞を舞ったり、玄人は普段はしない着流しの着付けで舞ったり、実験的なことをする会だったので、会名を「こころみの会」としました。師匠にご相談してお許しを得て、自分が能のシテを勤める「能の会」とは別に、初めて自分で主催した企画の会でした。
まずは一回と思っていたのですが、思いがけず好評をいただき、平成24年まで10回を催すことになりました。途中からはコンセプトを「自分が観たくなる会」とし、いろんな企画を立ててきました。今番組を並べてみると、「よくできたなぁ」と自分でも驚く程です。費用がなかったからでしょうか、二回目などは手作りしたパンフレットで、自分ながら微笑ましくなってきます。

師匠の梅若実先生はじめ、山本東次郎先生、友枝昭世先生、といったすごい先生方にもご出演いただきました。完全に見所にいる自分が思い描いて作った番組ばかりです。

第4回の「能の囃子を楽しもう」の会では、最後に乱囃子(能楽師が自分の専門ではない役を勤める舞囃子)「高砂」とだけ入れ、誰が出るか当日しかわからないという、サプライズ的な企画もしました。先生方も楽しんでくださったようでした。
乱囃子「高砂」の配役は

シテ・亀井広忠、笛・山村庸子、小鼓・梅若六郎、大鼓・山中迓晶、太鼓・山崎正道、地謡・大倉源次郎、助川治、松田弘之
でした。

どの会もワクワクしながら企画しました。お客様も第4回の「能の囃子を楽しもう」の会からはほぼ満席状態で熱気あふれる会となり、とても充実した時を過ごさせていただきました。

第5回の記念の会では「流儀の伝えるもの 人の伝えるもの」というサブタイトルで友枝昭世先生のシテ、梅若六郎先生の地謡という夢のような舞囃子「江口」。その後も山本東次郎先生の復曲狂言「東西迷(どちはぐれ)」、女性で地謡を謡わせていただいた梅若紀彰先生の袴能「井筒」など。そして最終回は「出逢いと別れ」のサブタイトルで山本東次郎先生御一門の賑やかさと寂しさを感じる狂言「若菜」、大島衣恵さんと鵜澤光さんの異流共演「蝉丸」でした。「蝉丸」は鵜澤久先生地頭の女性地謡で勤めさせていただき、それを「こころみの会」ひとつの区切りとしました。

その他の回も必ずテーマを明確にして企画することを心がけて取り組みました。今振り返ってみてもお客様に喜んでいただける会になったと自負しております。
「こころみの会」では自分が能のシテを勤める事はしませんでしたが、私の能楽師人生での一番の仕事をしたような気がしています。
ただひとつ、自分が観たいというコンセプトの会だったのに、当日は自分が見所に居れない、観ることができない、ということだけがとても残念なことでした。

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