山姥を舞う

12月12日(日)の「女流能に親しむ会」で、舞囃子「山姥」を舞わせていただきます。
ブログでの「歳をとらないとわからないこと」の中で、20代で「山姥」を舞って、当時の師匠に「これ以上どっしり舞うには体重を増やす以外ないのかなぁ」と言われた話を書きました。それから45年、鹿背杖を付きながら立廻りをするという違いはあれ、また舞囃子で「山姥」を舞わせていただくことになりました。
「山姥とは何者なのか、精霊なのか鬼なのか」
昔は何も考えず、若くて体もよく動くので、型がいろいろあるのが面白く、楽しくてただただ舞っていました。習い物の謡だったので、謡本もよく読んでいませんでした。
それから仕舞は何度も舞い、謡ったり能を観たり、ストーリーは別として、「山姥って何だろう?」という思いが膨らむばかりでした。仏教用語も難解な言葉も多く、謡を読み込んで頭で理解できるほどの素養も持ち合わせていません。けれども体に心にグッと来るものがあるのです。特に能の「山姥」は大好きでした。
師匠の演じられる「山姥」の能も何度も拝見しました。面、装束も演出もその度違いますが、それ以上に毎回違う存在感があり、ある時は「風」を感じ、ある時は「天地」を感じ、また時空を超えるというか人間の次元ではないものも感じ、かといって神とか仏とも違う…。自分の存在が小さなものでありながら、その空気に包まれているのが感じられるのです。

「そもそも山姥は生所も知らず宿も無し。ただ雲水を頼りにて至らぬ山の奥もなし」

山姥という名を姿を借りながら森羅万象を包み込む存在…?言葉では言い表すのが難しい…。師匠にお稽古を見ていただいたとき

「荒っぽい鬼のようにならないように。ある意味山姥は女性だと思っていいよ。ただただ強くどっしりというのではなくフワッとした空気感もあっての大きさがいる」

とお直しいただきました。またまた難題です…。お稽古の後で考えている中、ふと「母なる大地」という言葉を思い出しました。もしかしたら、そんな温かさもいるのでしょうか。

「自然の恵み」「自然の脅威」これらも私達に温かさと厳しさを教えてくれる…。その中で人間は「感謝」と「恐れ」を身に沁みて感じるようになったのではないでしょうか。「山姥」のキリ(最後の部分)です。

「春は梢に咲くかと待ちし 花を訪ねて山廻り 秋はさやけき影をたずねて 月見る方にと山廻り 冬は冴えゆく時雨の雲の 雪を誘いて山廻り 廻り廻りて輪廻を離れぬ 妄執の雲の 塵積もって山姥となれる 鬼女が有様見るや見るやと 峯に翔り谷に響きて今までここに あるよと見えしが山また山に山廻り 山また山に山廻りして行方もしらずなりにけり」

15年ほど前に山姥の能を観て作った五行歌です。表面だけでまだまだ凄さがわかっていませんでした。

四季を 時を 廻る 山に谷に 空に

高校時代に倫理の時間で「信仰心」についてのレポートを書いたことがあります。自分が育った家の環境が、仏壇もあり神棚もあり、先祖を祀った神社や、いろいろな祭事もあり、そして朝日や夕日に手を合わせる、いわゆる日本古来の神仏混交だったことを書きました。その上で、
「人が生きているのは自分の力ではない。何か大きなものに生かされている。そのことを知りその大きなものに対して祈り、生かされている感謝の念を持つ。それが信仰心ではないか。形としてそれがいろいろな神であったり仏であったりすることがあるかもしれないが、同じだと思う。それが争いのもとになるのは本当の信仰心ではないのではないか」
などと述べたのを覚えています。

もしかしたらその私が感じていた「大きなもの」それを信仰心の深い世阿弥が形にして「山姥」の能を作ったのではないか……。
当時も使われていた「山姥」の呼名は単純な「山に住む鬼女」程度だったのではないでしょうか。それを百萬山姥という遊女が曲舞にして舞っていたのを本物の山姥が姿を見せるという形の能で、世阿弥が大きな存在として「山姥」を世に送り出したのでは……そんな思いがよぎりました。そう考えれば「山姥」の能を観るたびに感じていた感覚と一致するような気がします。

これまで能で舞う機会はありませんでしたが、今回舞囃子の「山姥」を稽古をするなかで考えたとき、改めて「なんて難しい深い曲なのだろう」と思いました。とても太刀打ちできると思いませんが、せめて小さい存在ながらも自分の体をしっかり使って、今この世に生かされている感謝を噛みしめて「山姥」に挑戦したいと思います。

「女流能に親しむ会」については「公演・イベント情報」をご覧ください。

能・演目事典:山姥:あらすじ・みどころ
https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_046.html

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