今回、能楽タイムズの対談をきっかけに「こころみの会」を振り返った時、毎回の番組の挨拶文に自分の能に対する思いが詰まっていることに、改めて気づきました。
忘れかけていたその思いを大事にしたいと、10回分まとめてブログに残しておくことにしました。自分の能楽師としての心の変遷を知るために、会を催したときの年齢も入れて…。
第一回「女性の能のこれからを考える」
平成11年12月16日(木)51歳
男性社会である能の世界に女流能楽師が誕生して50年がすぎました。体力や声の幅など、女性であることのハンディはハンディとして見極め、その上で何か女性ならではの道を見つける事は出来ないか、とこの会を企画しました。たくさんのお客様に見ていただき、是非ご感想を伺いたく存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
第二回
平成13年3月20日(火・祝)53歳
今回の「こころみの会」では、訴訟の為都に上ったまま帰らぬ夫を待ち焦がれ淋しく病死した女が、夫の回向により愛と怨みの妄執の苦しみから仏道に導かれる「砧」の舞囃子を、前は着流し、後は紋付き袴で舞わせていただきます。前と後の間で、山本東次郎先生にご無理をお願いして「砧」の間狂言を素で語っていただくことにしました。第三者の情のある語りと、ワキの待謡、そして男性の地謡に助けていただいて、女の妄執、悲しみを等身大に表現し女性ならではの舞台を創り上げられたらと思うのですが…。
能楽師として面や装束を付けて能を舞う力を養うことは不可欠ですが、出来ればそれと並行してこのような試みを続けていければと考えております。ご高覧の上、皆様の忌憚のないご意見やご感想をいただければ嬉しく存じます。
第三回
平成15年11月29日(土)55歳
今回の「こころみの会」では、謡と舞にスポットを当ててみることにしました。このところ能の会の催しは増え、能を観る方も随分多くなってきたように思います。その一方で、謡や仕舞を稽古する方は年々少なくなってきて、能の会のときも連吟や仕舞の時間は見所の興味が薄れているように思います。謡のことや仕舞のことを知ることによって、もっともっと能を楽しめるはずです。このたびは梅若六郎先生に、謡や仕舞の魅力を是非伺いたいとこの会を企画致しました。後半は「謡と舞で源平の時代を楽しむ」と題しまして、皆様ご存知のお話を素謡や連吟、仕舞、舞囃子で楽しんでいただけたらと思っております。
第四回「能の囃子を楽しもう」
平成17年4月15日(金)57歳
「こころみの会」もおかげさまで四回を数えることになりました。今回は能の囃子の楽しさをお伝えしたいと思います。現在能楽界でご活躍の囃子方の先生をお迎えして、それぞれの道具の説明から、音色、拍子、掛け声のことなど、たっぷりと実演を交えながらお話していただきます。登場楽にもスポットを当て、天女や龍神、天狗などの登場を実際に演じるという試みをすることにしています。
後半は謡と囃子が一対一で相対する一調を大鼓、太鼓、小鼓でそれぞれ楽しんで頂き、また、めったにない一謡一管を当代随一の謡と笛で聞いていただく、という贅沢な試みを企画致しました。その後、舞と共に囃子の楽しさを十分に味わっていただける舞囃子、そして最後に乱囃子を予定しています。乱能・乱囃子とは、本来能はシテ方、ワキ方、狂言方、囃子方、それぞれが専業制になっているところを、その役割を入れ代わって演じるものです。通常の舞台ではそれぞれの専門のことしかしないのですが、当然お互いのことをわかっていなければ、良い舞台は勤められません。その為に能楽師は専門外の稽古をします。誰が何を演じるか、当日のお楽しみです。お誘い合わせの上のご来場、心からお待ち申し上げます。
第五回「流儀の伝えるもの 人の伝えるもの」
平成18年4月6日(木)58歳
「こころみの会」もおかげさまで回を重ね、第五回の記念の会を催させていただく運びとなりました。今回は「流儀の伝えるもの 人の伝えるもの」と題し、仕舞「清経クセ」を喜多流と観世流で続けてご覧頂き、後半では舞囃子「高砂 八段之舞」と「江口」を楽しんで頂きます。特に「江口」はシテを友枝昭世師、地頭を梅若六郎師という異流共演で演じていただきます。この企画は、長年私が拝見したいと心に温めておりましたもので、今回この贅沢な企画を実現させて頂きましたのは、ひとえに梅若、友枝両先生はじめ諸先生方のご協力の賜物と心から感謝申し上げます。
「女性の能を考える」「自分が観たいと思う」会にしたいとこれまで進めてまいりました。今回もお楽しみ頂ける会になると自負しております。ご来会心からお待ち申し上げます。
……次回に続く……