日本の文化や習慣に興味があり、「どうしても日本に行きたい!」という願いを持つ外国人を日本に招待するテレビ番組があります。
ある回で「流鏑馬」を身に着けたくて、自分で研究している、というフランス人男性が日本に招待されていました。馬に乗るのはもともと好きだったそうですが、ある時動画で日本の「流鏑馬」を見て、その動きの美しさに心を奪われたのだとか。
日本に着いてまず訪ねた先が、小笠原流の流鏑馬の稽古場でした。そこで体験入門をさせてもらうのですが、最初の稽古は馬に乗って上半身が動かず弓を射るのに体を作る、体幹を鍛えるための稽古でした。
少し足を開き、上体起こしたまま腰を沈め、両手を下前で組み手のひらを外にしてグーッと下に押し下げます。構えはそのまま今度はそのまま手を上に引き上げまたグーッと上に伸ばし、手を離して元に戻します。毎回この動作を50回してから稽古に入るのだそうです。門弟の人たちが当たり前のように繰り返す中、初めて経験するその人は、顔を真っ赤にして必死で取り組んでいました。
馬上で弓を射て的に当てるためには上半身を動かさないことが肝心、そのために体幹を鍛えるわけです。能以上に体感の強化が必要なのだろうと思った私は、立って一緒にやってみました。
それは大変な動きでした。しっかり腰を沈めてからその動作をすると、10回がやっとです。上半身を動かさない状態でお腹に力が入っているので、この態勢で声を出してみました。
「強吟の謡い方を感じるのにいいかも」
またもや「声の道場」「能エクササイズ」に繋げている私でした。
その後の「能エクササイズ」やお稽古のときにその話をして、何人かのお弟子さんにその動作を体験してもらいました。
私も日々のトレーニングに時々加えてはいましたが、とてもハードな稽古なので、皆さんにお勧めするというところまではしていませんでした。
それからしばらく経って、久しぶりに仕舞の稽古をしたお弟子さんが、急に足の運びがしっかりしていたので驚き、
「何かやったの?」
と聞くと
「前に先生に伺った小笠原流の稽古前の動作をしながら声を出したりしています」
と。
そういえば謡のほうも前よりお腹に力が入るようになってきたなと思っていたところでした。
「能エクササイズ」での「すり足」の稽古と小笠原流の体幹を鍛える動作が結びついてきたのかもしれません。
私の一度の話から、自分で稽古に取り入れてくれ、それが結果に繋がってきたことをとても嬉しく思いました。
自分で「これはいい!」と思ったことは
「受け取ってもらうのは難しいかもしれない」
と引っ込めず
「まずは一度は伝えてみよう」
という私の行き方を後押ししてくれるできごとでした。
いろんな稽古法を見つけ出し、皆さんと共有する。その中から自分に合う稽古法を見つけ出していってもらえたら…。一歩進んで自分で「これは!」という稽古法を見つけ出してくれるようになったら、もっともっと稽古が楽しくなるのでは、と思っています。