「薪を割る」と「鼓を打つ」

私は「ポツンと一軒家」という番組が好きで、時々観るのですが、ある時90歳に近いご夫婦が岩手県の山の奥で二人で暮らしている生活を紹介していました。
冬の暖を取るために薪が欠かせないので毎日薪割りをして軒下に積んでおくのだとか。
斧を一回振り下ろすだけで「スカーン」と丸太が割れ、いとも簡単に薪が作られていきます。体格のいいスタッフが体験してみますが、斧が丸太に当たっても「ガツン」という感じでまるで刃が立たないのです。


その時思い出しました。大鼓の稽古場で、先生がお弟子さんに注意をしていらしたときのことを。
「打つときに手に力を入れてはだめですよ。打つ前の引く動作のときにぐっと溜めて、打つときは力を入れず一気に」
というようなことでした。


能の囃子で打楽器は三つ。大鼓は横から、小鼓は下から、太鼓は撥ですが上から打ちます。方向は違いますが、全て打つ前に手を引くときの詰める息(そこで掛け声を掛けることが多いのですが)が大事で、打つのは意識をせず一気で。引くことによって打つ瞬間が決まるといってもいいと思います。
小鼓の音がポン、大鼓の音がカーン、太鼓の音がテーンといい音がするのと、薪を割るときにスカーンとする感じがするのは同じではないか、テレビを見ながらそんなことを思いました。


ポツンと一軒家に暮らすおじいさんの薪割りは無駄な力を使わず斧を持ち上げ、自然に斧の重さに任せ落としていました。長年繰り返して体が自然に覚え、力みがないのでしょう。最小の力で薪に当たる瞬間に最大の力が加わるのです。
私も経験がありますが、鼓を打つときに、いい音がすると手は痛くありません。初歩の頃音を出そうと手に力を入れて打つと、音がしないだけでなく手が痛いのです。スタッフの人が薪割りをやってみて、斧が薪にガツンと当たって割れなかっときも、きっと斧を持つ手が痛かったのではないかなと思いました。
野球やゴルフなどで球にバットやクラブが当たる瞬間も同じなのかなと思います。
「体の軸を作ること」と「無駄のない動き」は全ての動作に通じます。腰から動き始めることを体感する「能エクササイズ」にも活かして行きたいと思いました。

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