稽古それぞれ

コロナ禍の中で二回目のお正月を迎えました。お稽古のできない期間を経て、稽古の仕方がいろいろ変わり、改めて何が大切かを確認する機会にもなりました。

自粛生活を経て世の中の仕事の形態も変わり、テレワークが推奨され、能の世界でも配信での公演やZoomでの稽古などが活用されるようになりました。
画面を見て楽しんでいただくのは実際の能を感じていただくのとは違うといっても、この時期仕方がないかなとは思いましたが、Zoomでの稽古というのは私にとってはどうも違和感があり始めませんでした。

画面の動きは表面しか見えませんし、音声も音階は取れても息遣いまでは感じられません。お互いがその状態では、私がこれまでやっていた声の道場からの教え方、「心に響く 心に届く」という体を使った声の出し方を教えるのは無理だと思ったのです。普段から録音での稽古も「録ってもいいけど一緒に謡わないように」「音階を合わせないように」と注意していましたから、Zoomの稽古はそれと同じことをさせることになり、気が進みませんでした。
ただ、その状態で何もしないとせっかくのこれまでのお弟子さんたちの稽古や体への意識が無駄になりそうで、何かできることはないかと考えていたとき、あるお弟子さんから電話で謡の質問を受け、やり取りしているうちにふと思いつきました。

何でもいいから能や謡仕舞に関する質問をいただき、その返事をみんなで共有し考えることで意識を持ち続けられないか、私の考えを発信できないか……。
早速LINEをしている方たちのお稽古場ごとのグループを作り、質問を受けるとともに、自粛中の運動不足で身体が弱らないように、お家で出来る呼吸法や発声練習、ストレッチや軽いトレーニングをお伝えすることにしました。
LINEをしてない方には、会の一斉メールでお知らせできることはお知らせし、少しでも自分でできる稽古の情報を送りました。
そうこうしているうちにお弟子さんたちの協力を得て、このホームページを作成することになったのです。またLINEでの録音の音声はあまり雑音なく、息遣いまで感じられることがわかり、録音アプリで録音した私の謡をラインで送り、それを聞いたお弟子さんに自分で稽古していただき、それを録音して送っていただく、そして私がそれを伺ってからLINE電話でお直しをする、という稽古形態が出来上がりました。面白いことに、画面を見ずに聴くだけに集中すると、お弟子さんの声の質が変わることで「あごが上がっている」とか「体が沈んだ」とか相手の姿勢が変わったことまで感じられるのです。お直しも割合的確にできるようになったと自負しています。

自分の謡を録音するためには相当回数謡わないといけないので、対面の稽古よりハードな部分もあり、難しいところはありますが、長く続いた方は確実に上達なさったと思います。また、これまで遠方でなかなかお稽古にいらっしゃれなかった方や、海外赴任でしばらくお稽古できないと思っていらした方が、お稽古できるようになったりもしました。その一方、テレワークと同じで、家族のあり方によっては家でのお稽古の場所や時間を作るのが難しいという方もあり、誰でもできるというわけにはいかないとも思いました。

緊急事態宣言が解除され、稽古場が使えるようになると、今までどおりの対面での稽古に半数ほどは戻られました。対面の稽古でも、マスクでの稽古は口を大きく開けると謡いづらいし、マスクに声が籠もるので、かえって自分のできてない部分がわかりやすく発音発声の訓練になり、上手になられたかたが多いように思います。
カルチャーセンターでの「声の道場」は「マスク時代の伝わる声」として依頼を受け、そちらでも喜んでいただけたと同時に、私にもいろんな気づきがあり、稽古法の引出しが増えました。

日本は少し落ち着いているとはいえ、また新たな動きが出てきて、まだまだ安心できる状態ではない中、2022年の年が明けました。
この2年、出来なくなったことも多くありましたが、手探りで今できることを探し続けて来て、私もお弟子さんたちにもそれ以上に学びがあったように思います。
そろそろ発表の場がほしいと思う方も増えてきたので、今年は様子を見ながらお稽古会も始めようと思っています。リモートでお稽古の皆さんと、対面でお稽古するのもとても楽しみです。

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