命の恩人の鞄

20年ほど前、一度だけヨーロッパ公演のお手伝いに同行させていただいたことがあります。その折アムステルダムで連れて行っていただいたお店で、ある先生に「袴を入れるのにとても使いやすい」と教えていただいた製図鞄を買いました。軽くてしっかりしていて、肩にかけることができ、とても気に入りました。この鞄が先で私の命の恩人になってくれたのです。
このお正月に氷で滑って転び腰を痛めたことで、改めてその時のことを思い出しました。

ヨーロッパ公演の翌年だったか…師匠の大阪での公演を拝見したいと、友人と大槻能楽堂に行ったときのことです。

翌日京都で仕事があったので、アムステルダムで買ったお気に入りの製図鞄に紋付き袴を入れて肩に掛けていました。
あいにく雨が降ってきて、公演が終わった後に地下鉄の駅に急いだのですが、駅の階段の降り口に着いたところで滑って転んでしまいました。あっという間もなく普通なら階段を転がり落ちたところですが、肩にかけた鞄の上に乗る形になり、そのまま階段を一番下まで滑り落ちたのです。
暫くは何が起こったのかという感じで固まっていましたが、立ち上がってみました。どこもなんともありません。鞄の固い枠が一箇所凹んでいただけでした。

嘘のような漫画のような出来事でしたが、階段の上で一部始終を見ていた友人はさぞ肝を冷やしたことだろうと思います。


私はそれからもずっとその鞄を大事に使っています。本当に「命の恩人の鞄」なのですから…。
打ちどころが悪ければ命がなかったかもしれないし、大怪我で旅先の病院に担ぎ込まれたかもしれません。鞄で滑り降りて自分は無事だったとしても、もし下に人がいたら大変なことになったでしょう。運がいい、守られているとしか言いようのない出来事でした。

今回アイスバーンで転んだのも腰を痛めたとはいえ、骨に異常がなく運がいい方だったと思います。どうにか2週間程度で日常生活に支障がない程度に動けるようになりました。このあとは運に感謝し、焦らず舞台に立てる体を作り直していきたいと思っています。

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