楠森堂

楠森堂

毎年この時期は、福岡県うきは市にある、私の実家「楠森堂」で緑桜会の催しをするための準備に忙しくしていました。今年はコロナが収まらないこともあり、残念ながら中止に・・・。なんだか忘れ物をしたような気分です。

私の先祖は古くからその地に在り、山林業や農業に勤しんで来ました。戦後の農地解放や山の価値の下落、などなど経済的に打撃を受けましたが、昔から続く行事を守り先祖を祀るために、父や兄が頑張ってきました。家も明治から大正にかけて建てられたもので国の登録有形文化財に指定されています。指定されてはいるものの老朽化は年々進み、個人で持ちこたえるのはもう無理、「兄の代で実家は終わるかも知れない」と半ばあきらめていました。

ところが、兄の次男が30歳の時に脱サラをして帰ってきてくれたのです。実家には水田の他に200年前に先祖が始めた広い茶園がありました。5月までの農閑期の仕事を作り地域を豊かにするために始められたのですが、近年は人手不足などですっかり荒れ果てて生産が滞っていました。甥は「家を維持するためにはこれしか無い」とその茶園を慣れない農作業を覚えながら10年以上かけて一人で立て直してくれたのです。今は全国でも珍しくなった「在来茶」の生産を軌道に乗せ、インターネットでの販売を中心に頑張ってくれています。それでも老朽化した家の維持は簡単ではありませんでした。その中で甥が考えたのが江戸時代に建てられた蔵で5月に摘んだお茶を秋まで熟成させ「蔵出し茶」として販売することでした。そして、大正期に建てられた三方が開いた新座敷を一般に開放し、11月半ばに「蔵出し茶」の試飲会を始めたのです。

なんとかして力になりたいと思っていた私は、同じ時期にその新座敷を舞台として庭にお客様をお迎えする形で催しをするのはどうだろうと考えました。「試飲会にお客様が多く来てくださるかもしれない」「この家の現状と存在価値に目を向けていただけるかもしれない」と思ったからでした。昔、亡くなった両親と「新座敷は能舞台に似てるよね」と話していたことも思い出しました。

楠森堂

第一回は協力してくださるお弟子さんたちと、懇親旅行もかねて「楠森堂で緑桜会」を開催しました。兄や甥も喜んでくれ、参加した方にも楽しんでいただけたようだったので、それからは毎年恒例となり、素人会だけでなく、山本東次郎先生をお迎えしての狂言の会や、平家物語をテーマの「琵琶と笛の会」なども企画しました。

三回目の会で東次郎先生に演じていただいた「東西迷(どちはぐれ)」での最後の場面、山寺の僧が夕日を拝むところで、本当に西日がサーッと座敷に射し込みました。私にはそれが東次郎先生をはじめ、楠森堂にいらしてくださった方への先祖からの感謝の光のような気がして、涙が出そうになりました。東次郎先生も喜んでくださり、本当に心に残る会になりました。

パンフレット

催しも昨年で七回目を数え、今年も期日を決め準備に入った矢先に、新型コロナウィルスが猛威を振るい始めました。それでもなんとか収まらないかと夏までは開催のつもりでことを進めていましたが、東京から出向くことが楠森堂に迷惑を掛けることになるかもしれないと思い、ついにあきらめました。

「緑桜会」はできませんでしたが、「楠森堂」では第十回の「秋の蔵開き」をwithコロナの新しい形で、庭の紅葉に合わせ、お客様に楽しんでいただけるよう企画しているようです。私は来年を楽しみに今年は遠くから盛会を祈ることにしています。

楠森堂:https://kusumoridou.com/

2020年11月16日の楠森堂

11月16日の楠森堂

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