声の道場のワークショップで、受講生に和の発声を体験していただくときは、まず和の構えをお教えして、その後ハミングや母音を体に響かす練習をします。次に息に子音を乗せる稽古、言葉を乗せる稽古を繰り返します。そのあとで皆さんご存知の日本の歌を歌ってみるのですが、謡の稽古をするわけではないので、割合気楽に体験していただけるようです。
「さくら」や「荒城の月」などはよく使うのですが、この頃は最初の方は歌えても、歌詞が全部はわからない、という方もあります。字を見ながらや考えながらだと、なかなか姿勢や息に注意がいかないので、覚えているもので体験するほうがうまくいくということもあり、何かいい歌はないかなと思っていました。
あるとき、「君が代」でやってみたいという方がありました。確かに古い言葉ではあっても誰でも知っています。そして音域は割合広いけれど和の旋律です。
「これはいいかもしれない」
と思いました。というのは、大きなイベントが行われるとき「君が代」が歌われますが、いつも声楽やポップスなど西洋音楽を歌う方が独唱なさるので、
「能楽師に和の発声で歌ってもらいたいな」
と思っていたからです。東京オリンピックが最初の通り普通に開催されるようだったら、開会式を演出されるはずだった野村萬斎さんに投書しようかと思っていたくらいでした。
和の発声で、皆さんに「君が代」を歌ってもらう……次のワークショップの時に教材にしようかな、と思いましたが
「まてよ、君が代を歌いたくないという方もあるかもしれない」
国歌ではあるけれども昔からのイメージで捉えられ、時々問題になることもあります。
そこで考えました。
「歌いたくない人には“君が代”を“民が世”と歌ってもらったらどうだろう」
「神が世でもいいかも」
一字変えるだけで、そのあとの「千代に八千代にさざれ石の 巌となりて苔のむすまで」は恒久平和を願う言葉だから問題ないのでは…。
どうでしょうか?夏にまた朝日カルチャーの講座を依頼されているので考え中です。
講座にご興味のある方は、メニューから「声の道場・能エクササイズのお知らせ」をご覧ください。。