時々仕事で打ち合わせる40代の男性、昨年大病を患らわれ入院、暫く仕事を休まれていました。半年ほどでリハビリを続けつつですが、仕事に戻られました。
先日仕事に復帰されて最初にお会いしたのですが、前より小さく見えました。打ち合わせが終わって、私は彼に
「少し姿勢が悪くなったみたい」
と言いました。
もともとあまり姿勢は良くなかったのですが、療養生活のためか、より前屈みに見えます。声も顔が前に出るために表に出ていて、話していて周りに少しうるさいのではと気になりました。
「声の道場主」としてはどうしても黙っていられず、病気後のリハビリも大切だけど、その後のことを考えて健康のためにもお客様相手の声のためにも、普段から姿勢を良くすることを意識した方がいいとアドバイスさせてもらいました。
すると
「前から姿勢が悪いとは感じてたのですが、注意していただいてお話を聞き、何をするにも姿勢が大切なことがよくわかりました。これまでそういうことを注意してくれる人がなかったので、とてもありがたいです。これから気をつけます」
と喜んでくれました。「姿勢を正せ」と言われても、それがどういうことに繋がるかを納得しないとなかなか意識できないのかもしれません。
それから2週間ほど経って次の打ち合わせで彼と会ったとき、前より姿勢が良くなり声が聞きやすくなっていました。背筋を伸ばそうと頑張ってくれたことは間違いありません。まだまだ若いので、これから生活の空気が変わるのではないかと思います。とても嬉しくなりました。
何年か前、受験を控えた中学三年生相手に、面接のための声についての講義と実践を頼まれたときも、多くの生徒から彼と同じような感想をもらったことがあります。
私は講義の1時間ほどをほとんど姿勢の話に終始しました。声が伝わらない原因は、間違いなく子どもたちの姿勢にあると思っていたからです。理屈を話し、体に声を響かしたとき、姿勢の良し悪しで声質が変わることを実践で感じてもらいました。
「声の授業と思っていたのにほとんど姿勢の話でびっくりした」
「小さい時から姿勢を良くしなさいとは言われていたけど、あまり気にしていなかった」
「姿勢を良くすると呼吸も深くなり健康に良い、相手に伝わる声になる、歳をとったときも若々しく見えるなど、いいことばかりなので、これから気をつけたい」
というようなことが多く書かれていました。
「姿勢を良くしなさい」とは注意されていたが、姿勢が悪いとどうなるか、姿勢がよくなると自分がどう変わるのか、までは言われたことがなかったということなのでしょう。
ワークショップや本ではいつも、姿勢を良くすることを訴えていますが、普段の生活で交流する方たちにも気がついたときには「声と姿勢の関係」を発信しようと思います。おせっかいと思われるかもしれませんが、その人がもし「気をつけよう」と思ってくだされば、その後の人生に絶対にプラスになると思うからです。
私にそう感じさせてくれたのは
「今まで言われたことがなかったから、とてもありがたかった」
という言葉でした。