「こころみの会」挨拶文その2

前回の続き、「こころみの会」第六回からの挨拶文です。

第六回「年来稽古条々」
平成19年10月16日(火)59歳

第六回の「こころみの会」は世阿弥の「風姿花伝」から「年来稽古条々」の項を取り上げてみました。若い頃、これは役者の年齢による稽古の指標のみならず、普遍の人生訓だと心に残りました。けれどもこの頃改めて読んでみて、当時は役者といっても男性に対する教えであり、女性に対しては少し違うのではと思うようになりました。もちろん能の前には男も女もないと思いますし、修業が大事なことに変わりはありません。ただ、身体的精神的に純然たる違いがある、これは否めません。例えば男性が身体的に極端な変化があり難しくなる変声期は、女性にとっては稽古や舞台の上の支障はそれほどないと思います。それに引き換え、男性の芸が定まってくる三十代は、女性にとっては変化の多い精神的にも難しい時期なのではないでしょうか。少ないとはいえ若い時から能楽師を志す女性が増え、またプロでなくとも大勢の女性の方が稽古をなさる現代、もう少し女性の修業や稽古の在り方を考えてもいいのではないかと思うのです。
今回は子供の頃から能一筋を体現し、幾多の困難を乗り越え現在も第一線でご活躍なさっている、鵜澤、谷村、今村三先生と、今年十歳になる梅若美和音ちゃんをはじめこれからの活躍を期待されている若手の方を迎え、舞や謡を観て聴いていただきます。また梅若六郎師、晋矢師にお願いして最後に女性の地謡で舞って頂くことに致しました。ご覧頂いた皆様のご感想やお考えを是非伺わせて頂きたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。

第七回「日本の声」
平成20年11月30日(日)60歳

第七回「こころみの会」は趣向と場所を変えての催しとなりました。
実は私事になりますが、昨年来和のボイストレーニング「声の道場」なるものを始めました。いろいろな方がおみえになり、お稽古事のみならず日常の声に悩みを持つ方があまりに多いことに驚き、また文明の進化が人間の声そのものを退化させている事に気づきました。息を十分に使う日本古来の発声法を是非伝えたい、そういう思いでの今回の企画です。山本東次郎先生にご相談をして、二年前に復曲なさった出演者が一人の狂言、「東西迷(どちはぐれ)」を上演していただける事になりました。師がお一人で表現なさる世界を、皆様とご一緒に拝見させて頂くことを、私もとても楽しみにしております。
皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

第八回「武将を愛した女たち」
平成21年9月3日(木)61歳

いつも「こころみの会」をご支援いただきありがとうございます。
今回は「武将を愛した女たち」と題しまして、静御前と巴御前を取り上げてみました。武将を愛した二人の女性。武将の名を残すということの為に、心ならずも最期を共にすることが叶わず、その執心が後の世に残ります。『凛』という字がよく似合う、この二人の女性を鵜澤久、鵜澤光、大島衣恵お三方に演じていただきます。「こころみの会」で能を企画したのは初めてですが、私は「二人静」のツレをさせていただき、シテ鵜澤久さんの胸をお借りして、静御前の思いが表現できればと思っております。
義仲の自害を邪魔させないために最後まで敵と戦い、その形見を抱いて言いつけ通り木曽へ帰って行く、強くけなげな女武者「巴」を鵜澤光さんに、また、兄頼朝に疎まれて落ち延びていく義経を別れの悲しさを抑えて励まし送り出す「静」を喜多流唯一の女性能楽師の大島衣恵さんに、舞囃子で演じていただきます。
自分の気持ちを抑えてでも強く凛々しく生きていかなければならない、これは女性能楽師の生き方とも相通じるものがあるのではないでしょうか。
舞囃子「巴」は久さんを中心に女性の地謡と致しました。女性の能は珍しくなくなってきましたが、いつも言われるのは地謡の弱さです。一緒に謡う機会を増やし、女性の持っている謡の良さを感じていただけるよう努力すること、これが歴史の浅い女性の能を次に引き継ぐ大事なことだと考えています。ご高覧いただき真摯なご意見を頂ければ幸せに存じます。

……次回へ続く……

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