5月の梅流会で「東北」を演能させていただいて、改めて基本の型をしっかり身に着けていることがいかに大事かを心に刻んだ私でしたが、この度は9月の梅流会で「自然居士クセ」の仕舞を舞わせていただくことになり、またその思いを深く取り組むことになりそうです。
能「自然居士」は、仏教の説教者である自然居士が、いたいけな少女を人買いから取り戻すために、芸尽くしをさせられ最後には少女を助け出すという、ドラマチックな能です。
殆どの仕舞は、その能のクライマックスや、なにか意味のある物語や謂れなど、シテの思いに繋がる謡いどころが舞いどころになっているものですが、「自然居士」では、シテは仕方なく芸尽くしをしているという部分が仕舞になっているのです。
まずは、舟の起こりを語り舞う「クセ」、そして簓(ササラ)の起こりを扇と数珠で舞う「簓ノ段」、羯皷(カッコ)の舞からの「キリ」まで人買いの要望によって舞い続け、そのまま少女を助け帰るのです。
今回私が舞わせていただくのはクセで「舟の謂れ」の部分です。……皇帝の臣下の貨狄(かてき)という人が、池の上に落ちた柳の葉に蜘蛛が乗っているのを見て思いつき船を作り、それによって皇帝が敵を滅ぼし、御代を治めた……というような物語です。仕方なく舞っているのですから、何ら思いがあるわけではなく、逆に早く終わらせたいと思っているわけで、本当に淡々とした舞なのです。型も基本の型ばかりが続きます。稽古していても同じ型が多いので、ふっと気が散ると勘違いしそうになります。また、基本の型をしっかり踏まえていないと、ただ動き回っているだけの仕舞になってしまいます。
この能のシテ、自然居士の説教者としての姿や心はしっかりイメージしつつ、基本の型をきちっと舞えるように稽古を重ねたいと思っています。