腹話術と息

文春オンラインで腹話術のいっこく堂さんへのインタビューが取り上げられていました。
その中で、口の動きと声がずれる技術や、腹話術では難しいと思われる破裂音をいとも簡単に使える技術について質問され、どのように訓練したかを述べ、最後に
「息は止めます。止めないと出来ません」
と答えていました。

「声の道場2」の中で私は、いっこく堂さんの腹話術について述べています。

いっこく堂さんが、ジャンルの違う三体の歌手の人形を取り替え引き替え使って、ひとつの曲を口を動かさず歌いながらそれぞれの歌手の歌真似をする、という芸をテレビで見たときのことです。
日本語の歌を口を動かさずに歌うというのは想像がつきます。日本語は口を縦に開けなくても発音できるからです。でも口を開けずに歌いながらまるで違う三人の歌手の声質に変わるのはなんとも不思議でした。特に声楽の発声をする歌手の真似を口を開けずにするというのは、信じられませんでした。
私は「声の道場」で、和と洋の発声の違いについて、「和は横」「洋は縦」と顎の使い方の違いを述べていました。ワークショップでも声楽の発声を真似するときは口をしっかり縦に開けて歌っていました。口を縦に開けずに和と洋の声を歌い分けるって……。
「どうやっているんだろう?」私の考えと矛盾する気がして一生懸命口元を見ていました。そして、わかりました。
いっこく堂さんが声楽の発声をする時は、口は縦に開けていないのですが、顎と喉の筋肉を使って、喉をグッと縦に開いているのです。あとの二人の歌手の場合も、喉の奥を横に広げたり、そのまま鼻に抜いたりしているようです。つまり、歌いながら喉の奥の形を変え、声の響きを変えているのです。
「喉の動くのが見えないように、いつも襟の高い服を着るんですよ」
といういっこく堂さんの言葉を聞いて「やっぱり!」と思いました。
自分でもやってみましたが、曲がりなりにも音の質を変えることができました。
口を動かさないで歌うには喉の筋力が相当必要なので、ものすごい訓練をしなくてはできないと思いますが、きっと「息を体にしっかり溜める」ことができて、それを自在に遣うことができる人なのだろうと思います。

というようなことを書いていました。今回、ご自分で「息を止めないとできません」と話されているのを読んで、私が10年以上前に本に書いていたことが間違っていなかったと確認でき、とても嬉しくなりました。

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