折り目正しく

最近聞かなくなった言葉のひとつに「折り目正しい」があります。
行儀が良かったり、礼儀正しかったり、動作行動を褒めるときに「折り目正しい」という言葉は、昔からよく使われていました。
折り紙文化、着物文化など、日本には角や筋をきちんと合わせる事が大事な文化が数多くありました。
着物を着る方は着物を畳むときに、前にあった折り筋と同じ様に畳まれると思います。能装束も元の折り目とズレていたりすると皺になったり、形崩れしたりするので、当たり前のことですが、楽屋仕事で装束を扱う時は折り目正しく畳むよう厳しく教えられます。
若い人たちは日常的に着物を扱うことがないので、装束を扱うことを覚えるには、まずはきちんと畳むことからなのです。
きちんと保持された装束の折り目の直線が、それを身に着けた能役者を引き立てるのです。能役者は装束の下に胴着という綿入れを着て、体の線を消すのですが、直線を活かす、そういう効果もあるのではないかと思います。
そうして折り目正しく使われた装束も、当然のことながら長い年月使われていると傷んできます。いつも紐で結んだりする場所の「擦り切れ」はもちろん多いのですが、長絹や舞衣など張りがあり薄手の生地のものなどはその折り目から傷むことも多くあります。その「折り切れ」はその生地を補強しつつ折り目を崩さないように糸針で切れ目を何度も返し縫いして修理するのです。変わらず「折り目正しく」畳めるようにしているのだ思います。

先日、孫が夏祭りに浴衣を着て出かけたいと、ネットで可愛いのを見つけて購入したと言ってきました。
祭の日に着付けに行き、なかなか可愛く着付けることができました。
「長い時間着崩れなかった。さすがバァバ!」
と、とても喜んでくれました。
後日、娘から連絡があり、
「浴衣を洗ったんだけど、うまく畳めない」
と。私は洗い上がった浴衣を、そのままハンガーに掛けて干したために、強い陽射しでカラカラに乾いてしまって畳めないんだろう、と思いました。

浴衣を洗う時は昔は手洗いをしていましたが、この頃はおしゃれ着を洗う”ドライ“で洗えば大丈夫なので、そうしています。そうすれば脱水も強くないので皺になりません。その上で厚手のバスタオルの上で手で皺を伸ばしながら折り目正しく畳み、そのまま包んで、平らにしたまま干すのです。夏の日差しでバスタオルがほぼ乾いた頃に広げて、生乾きの浴衣を衣紋掛けに掛けて陰干しをします。
いつもそれでアイロンをかけずに、十分次に使えました。
「家でもう一度、やりなおしてあげる!」
と気楽に預かって帰りました。
ところが……
湿った状態で畳もうとしても平らにならないのです。襟などは捻れています。生地自体が捻れているようなのですが、ミシン縫いなので少しほどいて…ということようなことでは直せそうもありません。アイロンをかけたらよけいに捻じれ皺が目立ちそうです。角を合わせようとしても同じでなくてはいけない長さが揃わないところも…。
製品表示を見てみると「Made in China」……。
型紙や作り方は教えられていても、全部ミシン縫いで、縦と斜めの布地の縫い合わせなどの技術もない人が縫ったのかもしれません。また、着物の知識もないのでしょう。本当に「折り目正しい」が忘れ去られた状態でした。
前にもミシン縫いのものはありましたが、こんなにひどい歪みはありませんでした。

最低限、着たときに出るところを形にして畳み、どうにか使える程度にして箪笥にしまいました。

若い人たちは、こういう浴衣をどうやってしまっているのだろう?もしかしたら洗ってハンガーに干し、洋服感覚で着るのかしら…。

改めて「折り目正しい」日本を大事にしたいな、と思いました。

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