容疑者は見つかったけれど…

手首にはそれぞれの指を動かす腱が集中しています。首から肩、肘と筋肉や腱で繋がり、手首に集中するとそこから5本の指へ広がり細かな筋肉が指先の動きを掌るのです。

手首が痛いといっても原因は様々。どの筋が問題なのかを見つけなければ治療できません。スポーツ選手や専門の仕事をする方は痛みの場所が特化しやすいのですが、私の場合は能楽師として舞台に立つ以外に、大人数を着付けたり主婦としての家事全般もあり、手の使い方が多岐に渡っていたため、なかなか難しかったようです。

あるとき、施術をしてくださっている先生が、腕の筋肉を押しながら

「これかな?」

と言われ、

「この筋肉は表に出ているところが少しで中に潜っているんだけど、手を内側に捻るとき使います。テニスやバドミントン、野球などボールを打つときに使う筋肉で円回内筋といいます」

と図を見せて説明してくださいました。私のいくつかの痛みに関係しているかも、とも。

初めて聞く筋肉の名称でしたが、「そうか」と思い当たることがありました。

能の構えは舞や謡だけでなく、囃子の道具を持ったり打ったりにも、確かにその筋肉を張って使っています。ただ、気にしたことはありませんでした。

これまで足腰や肩首など使った筋肉は必ずストレッチをしてケアしていたつもりでした。けれどもその円回内筋という筋肉は考えたこともありませんでした。

また、毎日している筋トレやストレッチにも円回内筋は組み込まれていませんでした。

長い年月ほったらかしだったかもしれません。スポーツで使うような激しい使い方はしませんが、常に使い続けていたはずなのに…。

私が構えをして、先生が肘の内側の一点をグッと触られ、

「あ、間違いなく固くなりますね。容疑者が見つかりました」

と言われました。私は

「他の筋肉はケアしてたのに、円回内筋のことは全然気づかすケアしなくて炎症に繋がったのなら、容疑者扱いは可哀想かも(笑)。治ったらこれからケアします」

と答えました。

その日はその場所を中心に施術していただき帰りました。すごくいい感じで指先にも力が入ります。痛くてできなかった爪切りもでき、すごく嬉しくなりました。

けれども……一晩寝たらまたもとに戻ってしまい、痛みと向き合うことになりました。自分で先生のように押したりしてみたくても、両手とも指先に力が入らないので、なかなか思うようにいかないのです。自己ケアを目指したくて通い出した治療院ですが、先は遠そうです。少し間を詰めて通ったら良さそうにも思いましたが、仕事もあり、通うのに遠いのもあり、毎朝の強張りと痛みの辛さに

「自己ケアはなかなか難しいかもしれない」

と考えるようになりました。

「痛みはチャンス!」「すぐに注射や薬で痛みを取らずに、痛みの原因を見つけ出し、自己ケアできるようにする」

という、この治療院の先生の考え方にはとても共感したのですが、もう少し家の近くで同じような考え方の治療院を探してみることにしました。

そして、仕事の行き帰りに通えそうな治療院と先生を見つけました。若い先生ですが、やはり志高く研究熱心なところは前の先生と共通するところがあります。体験で二度ほど通って施術をしていただいて、また違うことを学ばせてもらえそうな気がしました。

これまで一緒に親身に原因を見つけてくださった先生、治ればしっかり役に立ちそうなケアの方法も教えていただきました。直接伺って正直に気持ちを伝え、また先で伺わせていただきたいとお話すると、

「わかりました。早く良くなるといいですね。治ったらその経過も教えてくださいね」

と言ってくださいました。

この短い期間に出会った二人の若い先生、どちらも私より30〜40歳若いのですが、その年齢の差を感じないで身体のことを真摯に語り合えます。云えば仲間のように話せる先生です。

長くなりそうな治療も、とても有意義なものになりそうな気がしてきました。

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