謡の稽古で私が注意するときに私がよく口にする言葉。
「お腹から」「一文目を腹と繋いで」「お腹が抜けないように」「腰を入れて」「腰を立てて」「腰から動いて」「顎を出さない」「顎を背すじに引きつけて」
などなど「腹」「腰」「顎」は皆さん耳にタコができているかもしれません。
自分がそうだったからわかるのですが、一生懸命努力しても
「お腹に力を入れよう」
と思うことで他のところに力が入ったり、何か一つを気をつけると他のことが崩れるなどなど、頭で考える動きはそう簡単には体に繋がりません。
「喉を開く3」で、欠伸を噛み殺そうとして「喉が横に開けた瞬間に腰と腹も決まる」という体験で気づいたのですが、動きを呼吸と関連させることでそれらの問題点が片付くかもしれないと思うようになりました。
正しく息が使え、腹ができたときには腰も入っていて、顎も引き付けられている。「腰と腹は表裏一体」。片方だけ考えてできるものではなかったのです。
正しい息遣いのためには、まずは「ゆったりするための呼吸」と「体に力が湧く呼吸」の違いを感じていただくのがいいようです。(二つの呼吸については「声の道場2」に詳しく取り上げています)
リラックスするときには「ゆったりした呼吸」が必要ですが、謡や舞の呼吸は「体に力が湧く呼吸」の方です。
ヨガやストレッチは息をゆっくり吸い「息を吐きながら動きを連動」します。入ってくる息も緩やかです。これに対して力が出る動きの場合は、吸うことを意識せず「強く吐き切る息に動きを連動」するのです。すると出し切った分一気に息が入ります。これが二種類の一息の違いなのです。
「ゆっくり吸いゆっくり吐く」
「一気に出し切り意識なく入る」
これが
「一息入れましょう」と
「もう一息頑張ろう」
という二種類の「一息」になるわけです。
先に頭で考えて動作を始めると呼吸が乱れて自然に動けず、いろんなところに力が入ってしまうけれど、どちらの呼吸かを意識して呼吸に連動した動きは、頭で考えない自然な動きになります。
力が籠もらなければできない動きの場合も、自然な呼吸と連動して始めると、腰と腹にだけ力が籠もり、他のところに無駄な力が入らないような気がします。
頭で考えて「肩の力を抜こう」とするのではなく、腰と腹が決まると自然に「肩の力は抜ける」のが本来でした。
私が言葉で個別に注意することが皆さんに考えさせ、体を固くしていたのかもしれない、と反省しました。
あらためて息から連動する能エクササイズを考えて、謡や仕舞に繋がるような「腰と腹に力が入っても他のところに無駄な力が入らない」という感覚を感じていただけたら、と思っています。