豊年に増さず 凶年に減ぜず

福岡県うきは市にある私の実家には、昔から伝わる行事が数多くあります。現在も兄と甥が苦労しつつ、家を守ると共に継承してくれているのですが、行事を続けるにあたっての家訓があります。

写真は 楠森堂ブログ より

「豊年に増さず 凶年に減ぜず」

というものです。これは行事には神事が多く、その年の収穫物などをお供えをし、最後に祭礼にいらした方と食事をするのですが、その際の心掛けに
「豊作で豊かなときもお供え物や食事の献立を増やさず、作物の収穫が少ないときも減らさずにいつも同じようにしなさい」
ということなのです。豊作の年にしっかり蓄えておけば、凶作の年も乗り越えられる、だからどういう時でも、いつも変わらない生活をしなさい、ということを行事にかけての教えにしたのだと思います。

私は小さい頃から、この家訓を聞かされ
「周りの環境が変わっても、お金が有っても無くても、自分はいつも変わらないでいなさい。偉くもならないし卑屈になることもない」
というようなことを両親に言われていました。そのおかげでしょうか、いいことがあっても、困ったことがあっても、あまり調子に乗ったり、慌てたりせずに普段の自分でいられるような気がします。

 
令和三年の年が明けて、また世の中が騒がしくなってきました。コロナ感染の状況が格段に悪くなり「緊急事態宣言」がまたもや発令されました。
去年の自粛のときには、初めての経験に、毎日の新しい生活形態をそれぞれが模索しました。大変ではありましたが得たものも多く、私の場合にはそれまでの順調な生活をしていたら、まずしなかったであろう「リモートの稽古」「ホームページの立ち上げ」があります。

「リモートの稽古」では新しい形の稽古で、今まで時々しかできなかった遠くの方たちとの稽古ができるようになったり、対面では気がつかなかった稽古法を思いついたりしました。「ホームページの立ち上げ」をしたことで、能楽師としての自分を振り返り、恩師・両親・家族をはじめまわりの方々に、改めて感謝の気持ちを深くすることができました。ホームページで新たな繋がりもたくさんできました。
 その他にも、できなくなったことで空いた時間に、いろんなことを思い立ち、新たな発見を楽しんでいる自分がいました。

「環境が変わっても、自分の中は何も変わっていないな。これって『豊年に増さず凶年に減ぜず』に似てない?」

家訓を「いろいろとやれることがあるときもやり過ぎず、やれることが制限されたときもその中で自分のできることを精一杯やれば、いつも同じ自分でいれる」と言い換えてみました。そして私が一番気を付けなくてはいけないのは、何でもできる状態の時に「やり過ぎない」ことだな、と気付かせてもらいました。

コロナ蔓延の真っ只中で対応していらっしゃる方たち、苦悩していらっしゃる方がたくさんいらっしゃる中、私たちにできることは自分が体も心も元気でいることだと思います。これまで続けてきた感染予防をしっかりして、成り行きを注視した上で、今回も「できないことを悔やまず、できることを楽しむ」スタイルでいきたいと思います。

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