世阿弥は能を作るときの心得として「古典の物語や歌を題材にするように」と書いています。
実際、現代上演されている能は、源氏物語、平家物語、伊勢物語、万葉集、古今和歌集などから題材を取ったものが多く、特に源氏物語と平家物語は群を抜いて数多いのです。
現代語訳で前に読んだことはあるので、知っている物語も多いのですが、ある時、安野光雅の「絵本平家物語」を見つけました。文字で読む以上に場面のイメージが広がるのにびっくり!これは若い人たちに物語へも能へも、入り口にしてもらうといいかもしれないと思いました。
そのあと、「能と日本画2」で取り上げた梶田半古の「名画で読む源氏物語」という絵本も見つけました。これも有職故実に詳しい半古の描く装いが美しく、能の題材になった絵も多いので源氏物語の世界に近づきイメージを広げるにはとてもいいと思っています。
思い出すと小さい頃は、牛若丸の話などは絵本で読んだ記憶があります。謡を始めて二曲目で「橋弁慶」に出会ったときに、すぐに「五条の橋の弁慶と牛若丸の姿」の画像が立ち上がった気がするのですが、それは子供の頃に読んだ絵本のイメージでした。また、「鞍馬天狗」では、能の中には出てこないのに、「沙那王が木の葉天狗と剣術の稽古をする画像」が浮かびました。それも絵本からだったと思います。他にも「敦盛」や「義経」「静御前」の姿など、小学生の時に読んだ「源平盛衰記」の物語の挿絵などにもイメージを助けられている気がします。
この頃は子供の絵本や物語に古典文学を取り入れたようなものをあまり見なくなりました。漫画には少しあるかもしれませんが…。子供の頃に古典を題材にした本格的な絵本がないのは寂しいなと思います。
そういう意味でも「絵本平家物語」や「名画で読む源氏物語」はおとなの絵本ではありますが、謡のお稽古をする方にはお薦めしたいと思います。