10月16日(日)の梅若定式能で仕舞「錦木」を舞わせていただきます。
「錦木」は男の恋の執心を描いた能です。
その昔、東北のある地方に、想う女の家の前に色鮮やかに飾った木(錦木)を置いておき、それを女が内に入れたら男の想いが受け入れられ、そのままなら受け入れられない、という恋の風習がありました。
そのことが読まれた歌もあり、それをもとに能が作られたのです。
ある男が細布を織る女の家の前に、錦木を置きますが内に入れてもらえず、それでも每日錦木を置き続けるうちに3年もの月日が経ち、錦木は千束も重なり男はついに亡くなってしまいます。
恋の執心といえば、似たような話に「通小町」の深草少将の百夜通いがありますが、「錦木」は百夜どころか千夜以上…。何たる執心、という感じですよね。もちろん昔からの話を能にするにあたり、詳しい経緯を省いたり、膨らませたりもしているのでしょうけれど。
男は錦木とともに土中に埋められ、その塚は錦塚と呼ばれました。前シテ(男の化身)にその謂れを聞き、錦塚に案内された旅の僧が読経し弔っていると、男と女の亡霊が現れます。現世では叶わなかった恋が弔いによって夢の中で一夜成就したことを喜び、男は舞を舞いますが、その束の間の歓びも夜明けとともに消えていくのでした。
苦しい執心の物語ですが、仕舞は最後の刹那的な歓びの場面を舞います。激しい立ち居も多く、若々しく動けるかどうか…。
能は角当直隆師の「富士太鼓 現之楽」です。地頭は梅若桜雪師!
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