追善と感謝の会

来年は私を能の世界に導いてくれた父の33回忌、母の25回忌に当たります。前々からそれに合わせて私の実家である楠森堂で、両親の追善の会を催したいと思っていました。
いろいろと考えることもあり、少し早いのですが今年の11月28日㈫に会を催す運びといたしました。

思えば11年前に第一回を始めたきっかけは、登録文化財に指定された実家の家の維持と家業の製茶業で悪戦苦闘している、兄や甥の応援をしたい、自分になにか出来ることはないか、ということからでした。

楠森堂には、庭の中に張り出した、三方が開いている座敷があります。大正時代に建てられたものですが我が家では新座敷と言っています。
昔から両親と
「能舞台みたいだよね」
といっていたのを思い出し、「ここで会をしていろんな方に観に来ていただくのはどうだろう」と思いついたのでした。
何かイベントをすることで、お茶とともに建物にも目を向けていただけるかもしれないし、会を観に来た方にお茶を知っていただけるかもしれない…。
折から、甥の発案で五月に摘んだお茶を蔵で半年熟成させて造った「蔵出し茶」を、楠森堂の庭と新座敷を開放してお客様に試飲していただくことを始めたばかりの頃でした。
「試飲会に合わせて会を催したら…。」
兄や甥にも相談し、お弟子さん方にも計ったところ、トントン拍子で話が決まりました。最初は、東京から参加してくださった緑桜会の会員何人かと地元の私の囃子仲間だけで、連吟や仕舞、独鼓など一二時間の短い会でした。
それでも沢山のお客様が観に来てくださって、会に参加した方も楽しまれ、とてもいい雰囲気だったので、また来年もやりましょう、ということになりました。
二回目には大鼓の白坂信行先生や久田陽春子先生にも加わっていただき、舞囃子が増えました。そしてこの先も会を続けていこう、ということになったのです。
三回目にはだいそれたことに有料公演を思い立ち、山本東次郎先生にお願いして一人狂言「東西迷(どちはぐれ)」を演じていただきました。山寺でのお坊さんの一人狂言は新座敷にぴったりだと思ったのです。
自然の緑と古い座敷、そこに差し込む木漏れ日、想像以上の素晴らしい舞台効果となり、お客様も感激してくださり、東次郎先生にもお喜びいただけました。
両親と私が教えていただいていた鷹尾祥史先生のご子息、維教先生、章弘先生にもこの会から来ていただくことになり、一部で催す緑桜会も華やかになりました。
四回目、五回目も岩佐鶴丈先生の薩摩琵琶と松田弘之先生の能管を中心にした企画公演を催しました。その有料公演の折も、必ず一部で緑桜会を催し、多くの方に参加していただきました。
六回目七回目は緑桜会のみでしたが舞囃子中心に続け、その後コロナ禍で仕方なく二年のお休み。そして去年の八回目。お天気にも恵まれ久しぶりに、出演者にもお客様にも楠森堂の会を満喫していただいたように思います。

これまで八回全て参加してくださった方も三名あります。けれどもこの二年のお休みの間に亡くなった方もあり、手術をなさる方があったり、私も昨年転倒事故があったりと一年先の会を計画するのに少し自信が持てなくなってきました。そのために、考えていた会を一年早め、今年を両親の追善の会にして、楠森堂の会を一応区切りにさせていただこうと思うようになったのです。

此の11年、本当に「ありがたかった」と思うことばかりでした。出演してくださった先生方、会員の皆様、観にいらしてくださったお客様、そして両親に、精一杯の感謝をこめて追善の会を催させていただきます。

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