能「巻絹」を舞う

昨年末思いもかけず代役をいただき、2月11日(土)の梅若会定式能において、能「巻絹」を舞わせていただくことになりました。
これからは舞囃子を中心に舞台を勤めさせていこうと方向を決めたところだったので、一瞬戸惑いましたが、師匠が決めてくださったことなので、
「もうひと頑張りしなさい」
という神様のお告げかなと気を入れ直しました。なにしろ「巻絹」は「神様のお告げ」の能なのですから…。

能「巻絹」のあらすじ
帝の霊夢により、巻絹を熊野三社に届けるよう諸国に勅命が下りました。都からの使いの男(ツレ)は、巻絹を届ける前に音無の天神に参詣し、冬梅の美しさに心中に歌を詠み、神に捧げます。その後、勅使(ワキ)に巻絹を届けますが、期日に遅れた罰として縄で縛られてしまいました。
そこに巫女(シテ)が現れ、彼は昨日音無の天神で一首の歌を詠み神に捧げた者で、それを神が納受したから彼を許して縄を解くようにと勅使に命じます。神託を信じない勅使に、巫女は男に昨日神に捧げた歌の上の句を言わせ、すぐに自分が下の句を続けることで証明し、神は心に念じただけで納受するのだと諭し男の縄を解きます。
巫女は和歌の徳を述べ、勅使の勧めで神楽を舞いますが、熊野の神々が次々と憑依し激しく舞い狂います。突然神が上がられたのか狂いが覚め、巫女は本性に戻るのでした。

最初の呼び掛けで登場するのは巫女なのですが、もう彼女には神が降りてきています。
「其の者は昨日音無の天神にて。一首の歌を読み我に手向けし者なれば」
と言っていますので自分が神だと言っているわけです。そして戒められている使いの者を助け、神楽を舞い次第に高揚し、
「神は上がらせたもうと言い捨つる」
「声のうちより狂い覚めてまた本性にとなりにける」
と巫女は正気に戻り終わります。
弊(梅の枝)を投げ捨て気が抜けたように座し、狂いが覚めてもとの巫女に戻る、という終わり方も面白いと思います。

15年前に一度舞わせていただいたことがあるのですが、特に思い入れがあったりということもないので、女性の舞い手にとっては素直に入りやすく、観ている方にも気持ちよく観ていただける能ではないかと思っています。
ただその分、楽に流れやすく、自分勝手になりそうな能であるかもしれません。前に舞ったことがある、というのも要注意です。
今回は「神楽留」という小書きが付き、舞の寸法や型が常と少し異なり、また弊の代わりに梅の枝を持って舞います。
折しも梅の季節、世阿弥の「時々の初心」を噛み締めて、新たに舞うつもりで臨みたいと思います。

詳しくは「公演・イベント情報」をご覧ください。

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