マスク時代は過ぎても

朝日カルチャーセンターから、また講座の依頼が来ました。
ちょうどコロナも収まりつつあり、マスクをつけるのが個人の判断に任せるということになって、担当の方から「マスク時代の伝わる声」という講座名でもいいかどうかの相談を受けました。
私は、「花粉症もあるしまだまだマスクをしばらくは続けるという方もあるので今回はこのままで」というお返事をしました。マスクをつけることが当たり前になっているこの時期こそ、日本語本来の発音発声を取り戻すいい機会だと捉えているのです。

私が謡の稽古を始めたのは、今の師匠である梅若桜雪(当時梅若景英)先生の能を拝見して、「面をつけていても声が籠らず、体から響いてくる」ことに驚いた体験からでした。
口を手で覆い、その状態ででも言葉が明瞭に聞こえるようにはどうすればいいかを稽古に取り入れていました。その時の経験を「声の道場」で活かせたのです。

声に悩みを持って「声の道場」にいらした方に、声が響かず聞き取りにくいのは、表に向かって声を出そうとしているからだ、ということを実感していただくために、これまでしていたことがあります。

まず私が手を口に当てて話し、その声を聞いてもらうのです。姿勢が悪い状態だと、声は息で外に押し出されて手の中に籠もってしまいます。声を大きくしても聞き取りにくいのがわかります。その後に手を口に当てたまま姿勢を正し顎を引いた状態で話すと、声が大きくなくても体に響き言葉が明瞭になるのがわかっていただけました。

「口に手を当てて話す」のは、体に響く相手に伝わる声を身に付けるために必要なことをわかっていただくための方法でした。なるだけ背筋を伸ばし、体を楽器にするのが大事だということをまずは理解していただきたかったのです。

今はマスクをして声が伝わりづらいという体験を日常的にしている方たちに、そのままそれをお教えするわけですから、皆さんにより理解していただけます。
「口から耳へ聞こえる声」ではなく「体から体へ響く声」を多くの人に感じていただきたい私としては、講座名として「マスク時代の伝わる声」はとてもわかりやすいと思っています。

このホームページを始めるきっかけとなった
息の中にて文字を言い放つべし
という冊子の文章をブログの最初に掲載しています。多くの方に読んでいただけると嬉しいです。

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